(2026年10月27日時点のニュースをもとにまとめました)
ニュースには、聞きなれないカタカナがたくさん出てきます。
この解説では、ニュースに出てくる言葉をそのまま残して、そのとなりに「たとえば、こういうこと」と書きました。
テレビや新聞でその言葉を見たときに、「ああ、あの話か」と分かるようにするためです。
ひとことで言うと
GMO という会社が、インターネット上の「借りられる Windows パソコン」 を、たくさんの人に貸していました。
借りていたのは、FX(外国のお金の売り買い) をしている個人の人たちです。
借りたパソコンの中で 売り買いを自動でやってくれるソフト を、ずっと動かしていました。
そこに 犯人が入りこみ、パソコンの中にあった お金の口座のログイン情報(口座に入るための ID とパスワード)を盗みました。
犯人はその情報で、みんなの口座のお金を 勝手な取引で減らし、さらに GMO に 「身代金(みのしろきん)」を払え とおどしています。
動画で見る(3話・各2〜3分)
この解説を、聞き手と解説役の掛け合いの動画にしました。文章を読むのがおっくうなときは、こちらからどうぞ。
※ 画像と音声は AI で生成しています。
ニュースの言葉とたとえ ― 早見表
| ニュースに出てくる言葉 | たとえると | 本当はなにか |
|---|---|---|
| お名前.com デスクトップクラウド | GMO が持っている「貸し部屋」の名前 | GMO が貸していたサービスの名前 |
| VPS(ブイピーエス)/Windows VPS | インターネットの向こう側にある 「貸し部屋」に置いてある Windows パソコン | 自分の家ではなく、会社の建物にあるパソコンを、インターネット経由で借りて使う仕組み |
| FX(エフエックス) | 円とドルなどの 外国のお金の売り買い で、もうけをねらうこと | 外国為替証拠金取引 |
| 自動売買ソフト/MT4・MT5(メタトレーダー) | 「この値段になったら買う・売る」を 代わりにやってくれる店番ロボット | FX の売り買いを自動で行うソフト。MT4・MT5 はいちばんよく使われているソフトの名前 |
| ログイン情報/認証情報 | お金を預けている会社の 通帳と暗証番号 | FX 口座に入るための ID とパスワード |
| 不正アクセス | 空き巣(勝手に部屋に入られること) | 許可なく、他人のパソコンやサーバーに入りこむこと |
| サーバー | 貸し部屋がたくさん入った大きな建物 | たくさんのパソコンをまとめて置いてある機械。今回は 2万6739台に影響した可能性 |
| 不正プログラム | 空き巣がこっそり置いていった 盗聴器や合鍵 | 犯人がパソコンに仕込んだ悪いソフト |
| 身代金(みのしろきん) | 「金を払わないと、もっとひどいことをするぞ」という ゆすり | 犯人が GMO に要求しているお金 |
| ランサムウェア | 家の中のものを全部 金庫に閉じこめて「開けてほしければ金を払え」 と言う手口 | パソコンの中のデータを使えなくして、お金を要求するウイルス |
| ホワイトハッカー | 会社に雇われている 「防犯の専門家」 | 攻撃のやり方を知っていて、それを守りに使う技術者 |
| 能動的サイバー防御 | 警察が 犯人のアジトに先回りして止めにいく 仕組み | 国が攻撃元のコンピューターに入って、攻撃を止める仕組み。今年10月1日に始まったばかり |
1. 被害にあった人たちは、何をしていたの?
FX ― 外国のお金の売り買い
円とドルの値段は、毎日少しずつ上がったり下がったりしています。
安いときに買って、高いときに売れば、その差がもうけになります。
これを FX(エフエックス) と言います。
お金を預けておく口座は、証券会社や FX 会社(ニュースでは「国内外の 70 をこえる証券会社・FX 会社」)に作ります。
自動売買ソフト(MT4・MT5)― 24時間はたらく店番ロボット
外国のお金の値段は、夜中も、早朝も、ずっと動いています。
人が一日中見張っているのは無理なので、
「この値段になったら買う、この値段になったら売る」と決めておくと 代わりに売り買いしてくれるソフト を使う人がたくさんいます。
ニュースに出てくる 「MT4(メタトレーダー4)」「MT5」 は、このソフトのいちばん有名なものです。
ここでは、このソフトを 「店番ロボット」 と呼ぶことにします。
なぜ自分のパソコンでやらなかったの?
店番ロボットは、パソコンの電源が入っている間しか働けません。
自分の家のパソコンでやろうとすると、
- 24時間 365日、電源をつけっぱなし にしないといけない
- 電気代がかかる
- 停電やパソコンの故障、Windows の更新で 勝手に再起動 されると、ロボットが止まってしまう
- パソコンがロボット専用になってしまい、ほかのこと(メール・ネット・年賀状づくり)に安心して使えない
という困ったことがあります。
そこで「インターネット上の Windows パソコン」を借りた ― これが VPS
GMO の 「お名前.com デスクトップクラウド」 は、
みなさんが家で使っているのと同じ Windows パソコンを、インターネットの向こう側に一台借りられる サービスです。
こういうサービスを VPS(ブイピーエス)、Windows が入っているものを Windows VPS と言います。
- パソコン本体は GMO の建物(データセンター)にあって、GMO が 24時間電源を入れ、見張ってくれる
- 利用者は、自分の家のパソコンやスマホから、インターネットごしにその借りたパソコンを リモコンのように操作 する
- 月 2,640円 くらいから借りられて、これまでに 20万件以上 契約されていた
つまり、
店番ロボット(MT4)を置いておくための「貸し部屋」を、GMO から借りていた
ということです。
2. 貸す側は「安全です」と言って貸していた
ここが、この事件のいちばん大事なところです。
不動産屋さんにたとえると
お店を借りるとき、不動産屋さんは
「このあたりは 治安がいいですよ」「しっかりしたカギ がついていますよ」「警備員 もいます」
と言って貸しますよね。
「このへんは空き巣だらけですよ」と言って貸す不動産屋さんはいません。
GMO も同じで、
「24時間、安心・安全に 自動売買ソフトを動かせます」
という触れ込みで、この貸し部屋を貸していました。
借りる人は、部屋のカギや建物の防犯は、貸す側がちゃんとしてくれている と信じて借りていたわけです。
ところが、建物の防犯に穴があった
犯人は、次のように言っています(ここは犯人側の言い分で、GMO はまだ認めていません)。
- すべての部屋を開けられる「共通の合鍵」(管理者アカウント)があった
→ 本当なら部屋ごとに別のカギのはずなのに、一本の合鍵で全部の部屋に入れた、ということ - 借りた部屋と、利用者の自宅が「裏口」でつながっていた
→ 借りたパソコンを家から操作すると、自宅のパソコンの中まで、借りたパソコンの側から見える設定 が、最初からオンになっていた
そして GMO の社長(熊谷正寿さん)自身も、ブログで
会社の中の「ホワイトハッカー」(防犯の専門家)から、前もって弱いところを指摘されていたのに、対策が間に合わなかった
と認めて、あやまっています。
不動産屋さんで言えば、
「警備の担当者から『この裏口のカギが弱いです』と言われていたのに、直すのを後回しにしていたら、空き巣に入られた」
という状態です。
3. 何が盗まれたの? ― 部屋に「通帳と暗証番号」が置いてあった
店番ロボット(MT4)が代わりに売り買いをするためには、
お金を預けている証券会社・FX 会社の口座に入るための「ログイン情報」(ID とパスワード) を、ロボットに教えておく必要があります。
つまり貸し部屋には、
いろいろな銀行の通帳と暗証番号が、ロボットのそばに置いてあった ようなものです。
10月20日ごろ、犯人がこの貸し部屋に 不正アクセス(空き巣)をしました。
被害にあったかもしれない部屋(サーバー)は 2万6739 にのぼります。
犯人は、部屋に置いてあった ログイン情報(通帳と暗証番号)を持ち出しました。
大事なこと:お金を預けていたのは GMO ではない
被害にあった人たちが口座を作っていたのは、国内外の 70 をこえる、いろいろな証券会社・FX 会社 です。
GMO の関係の会社だけではありません。
GMO は「貸し部屋」を貸していただけです。
ところが、その貸し部屋に いろいろな会社の通帳と暗証番号がまとめて置いてあった ので、
一つの建物が破られただけで、たくさんの会社の口座に被害が広がってしまった のです。
4. お金はどうやって消えたの?
犯人は盗んだログイン情報で、一人ひとりの FX 口座に入りこみました。
そして、わざと大損するような売り買いを、ものすごい速さでくり返して、預けてあったお金を減らしてしまいました。
(ニュースでは「不正操作」「不正取引」と言っています)
ニュースに出ている被害の例:
- 「たった 2秒 で 400万円 がなくなった」(44歳の男性)
- 「300万円 が全部なくなった」
- 広島県の 61歳の会社員の男性は「240万円 失った」
- X(旧ツイッター)には「600万円」「230万円」「55万円」などの声
犯人は「24時間で約77億円分の口座を破壊した」と言っています。
お金を自分のものにするというより、GMO をおどすために、わざと損をさせた と見られています。
5. 犯人は何を要求しているの? ― 身代金とランサムウェア
| いつ | 犯人の要求 |
|---|---|
| 最初(期限 10月21日) | 「5000万ドル(約80億円) を暗号資産で払え」 |
| そのあと(期限 10月27日 お昼12時) | 「100万ドル(約1億6千万円) を払え。払わなければ、利用者の自宅のパソコンを ランサムウェア で攻撃する。盗んだ 個人情報 もばらまく」 |
ランサムウェア は、パソコンの中の写真や書類を 全部カギのかかった金庫に閉じこめて、「開けてほしければお金を払え」 と言うやり方です。
犯人は「裏口」を使って、利用者の 自宅のパソコン までねらうと言っています。
GMO は「払わない」と決めた
GMO は「お金を払っても、盗まれた情報が消される保証はない」として、身代金は払わないと決めました。
専門家(神田敏晶さん)は、
「みんなが払ってしまうと、ゆすりが『もうかる商売』になってしまい、次の会社がねらわれる」
と説明しています。
27日のお昼、GMO は「パソコンの電源を切って」と呼びかけた
犯人の予告の時間が近づいた 27日のお昼前、GMO は利用者に
「大事なデータを別に保存して、自宅のパソコンの電源を切ってください」
と呼びかけました。
(電源が切れていれば、裏口から入られても何もできないからです)
期限のあと、犯人は一人分の個人情報を公開した
期限がすぎた 27日のお昼すぎ、犯人は自分たちのホームページに、
利用者とされる一人の名前・電話番号・住所など をのせました(本物かどうかはまだ分かっていません)。
そして「これから毎日お昼の12時に、一人ずつ公開していく」と言っています。
木原官房長官は「卑劣な行為で、断じて許されない」と話しました。
6. GMO は何をしているの?
- 不正取引で出た損は 全額うめあわせる(補償する) と約束した
- 被害があってもなくても、利用者全員に 見舞金 5,000円 を払う
- 貸し部屋(サービス)を すべて止めた。今の仕組みのままでは再開しない
- 警察 に相談している
- 利用者からパソコンを預かり、ホワイトハッカー が調べている
- 国に「能動的サイバー防御」を使ってほしい、とお願いした
「能動的サイバー防御」って?
これまでは、攻撃されても 守ることしか できませんでした。
「能動的サイバー防御」は、国が攻撃してくる犯人側のコンピューターに入りこんで、攻撃を止める 仕組みです。
警察が、犯人のアジトに先回りして止めにいく ようなものです。
法律は今年10月1日に始まったばかりです。
でも、批判も出ている
- この仕組みは 国が判断して使うもの で、会社が「使ってください」とお願いする決まりはありません
- 「自分の会社の防犯が甘かったのに、国にたのむのは責任のおしつけでは」という声が、インターネット上で多く出ています
不動産屋さんで言えば、
「カギが弱いと言われていたのに直さず、空き巣に入られたあとで、警察に『犯人の家に乗りこんでくれ』とたのんでいる」
ように見える、ということです。
7. もし身近な人が使っていたら
- 証券会社・FX 会社の パスワードをすぐ変える
(借りていた Windows VPS ではなく、ふだんのスマホや別のパソコンから 変える) - 二段階認証(パスワードのほかに、スマホに届く番号も入れる仕組み)が使えるなら設定する
- 身に覚えのない取引がないか 確認する
- 「GMO です」「補償します」というメールが来ても、添付ファイルやリンクをすぐ開かない
(犯人が GMO のふりをして、ランサムウェアを送りこむこともありえます)
まとめ
- FX をしていた人たちは、店番ロボット(MT4 などの自動売買ソフト)を動かすために、
GMO から インターネット上の Windows パソコン(Windows VPS) を借りていた - 自分のパソコンだと 24時間つけっぱなし にしないといけないので、「安全です」という貸し部屋を借りた
- ところが建物に 共通の合鍵 や 自宅への裏口 があったと犯人は言い、GMO の社長も 防犯の専門家から指摘されていたのに直せていなかった と認めた
- 犯人は部屋に置いてあった ログイン情報(通帳と暗証番号) を盗み、70 以上の会社にある みんなの口座のお金を勝手な取引で減らした
- 犯人は 身代金 を要求。GMO は払わず、犯人は 毎日一人ずつ個人情報を公開する と言っている
「安全です」と言って貸している以上、防犯は貸す側の責任 です。
そして、便利だからと一か所に大事なものをまとめて預けると、そこが破られたときに全部まとめて取られてしまう ――そういう事件です。
書き手から ― サーバーを預かる立場として
わたし自身も、お客様のシステムをサーバーに載せて動かし、毎月の保守をお引き受けしています。
規模はまったく違いますが、立場としては今回の GMO と同じ「部屋を貸して、カギを預かる側」です。
この事件でいちばん重いと感じたのは、「弱いところを前もって指摘されていたのに、直すのが後回しになった」 という一点でした。
サービスを止めたくない、ほかにもやることがある――その事情は、現場にいる人間としてよく分かります。
それでも、借りる人は「安全です」という言葉を信じてお金を払っています。
その言葉を口にした以上、防犯の手当ては「いつかやること」ではなく「いま最初にやること」 なのだと、あらためて肝に銘じました。
もうひとつは、大事なものを一か所にまとめることの怖さ です。
便利さと引き換えに、一か所が破られると全部が一度に危なくなる。
これは FX の自動売買にかぎらず、パスワードの使い回しや、ひとつのパソコンに何でも入れておく使い方にも通じる話です。
IT に詳しくない身近な方が、ニュースで「VPS」や「ランサムウェア」という言葉を見て、少しでも「ああ、あの話か」と思えるように、と書きました。
事件はまだ続いています。続報が出たら、この記事も書き足していきます。
参考にした報道
- 「お名前.com」のFX自動売買VPS、不正アクセスで金銭被害か(ITmedia NEWS)
- 「わずか2秒で400万円が…」GMOのFX取引に“ハック”(TBS NEWS DIG)
- GMO不正アクセスで被害者が告白「300万円が全損」(J-CASTニュース)
- GMO、不正取引の被害額を補償へ 見舞金5000円も(ITmedia NEWS)
- GMO、セキュリティー巡る「課題」を社内ホワイトハッカーが指摘していた(J-CASTニュース)
- GMO熊谷代表「社内ホワイトハッカーが事前に指摘」も対策遅れ、国に「能動的サイバー防御」要請(ITmedia NEWS)
- GMOに79億円要求 サイバー攻撃者の脅迫文を公開、支払いは拒否(朝日新聞)
- GMO、政府へ能動的サイバー防御「要請」(朝日新聞)
- 利用者にサイバー攻撃仕掛けると身代金要求、GMO「脅迫に応じない」(読売新聞オンライン)
- GMOの不正アクセス、攻撃者が個人情報1件を公開か(読売新聞オンライン)
- GMOへ不正アクセス 攻撃側が利用者の個人情報を公開か 木原官房長官「卑劣な行為」(テレビ朝日系 ANN)
- GMO、全利用者に見舞金5000円 攻撃者の金銭要求は応じず(毎日新聞)
- GMOへの脅迫、なぜ『払ってはいけない』のか(神田敏晶・Yahoo!ニュース エキスパート)